生前贈与を賢く使おう!~暦年贈与と相続時精算課税編~

この記事の目次

はじめに

こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。

今回は「生前贈与」の活用法についてお話していきたいと思います。

“ヒゲダン”ことOfficial髭男dismさんの曲の歌詞にも「生前贈与」というフレーズが出てくるほど言葉自体はポピュラーで、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

ですが、この中身については詳しくはよく分からないという方も多いと感じます。仕事柄「贈与をしたら税金はかかるのは知っているけど、税金がかからずに渡せることもあるの!?」という反応もよく見てきました。

そこで本記事では生前贈与の基本パターンである「暦年贈与」と、その応用系であり、生前贈与を最大限有効に活用する方法でもある「相続時精算課税制度」について現役会計事務所職員である筆者が解説していきたいと思います。

尚、贈与と相続は表裏一体です。相続のキホンについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、是非こちらも是非あわせて確認しましょう。

暦年贈与とは

暦年贈与の概要

暦年とはその名のとおり、「暦(こよみ)」のうえでの1「年」のことをいいます。つまり毎年1月1日から12月31日までの期間という意味です。

この暦年の期間、つまり

1月1日から12月31日までの期間に毎年110万円までは非課税で贈与できます。

これは贈与税の基礎控除というもので、誰から何をもらっても年間110万円相当までは非課税で財産を渡す(貰う)ことができます。

ちなみに、

財産をあげる人のことを「贈与者」といい、

財産をもらう人のことを「受贈者」といいます。

税金を申告する際に、必要書類などを調べると「贈与者」の住民票や、「受贈者」の戸籍謄本などの形で必要書類が記載されていたりするので覚えておきましょう。

あげる人には「与える」という字が入っていますし、もらう人には「受ける」という字が入っているので覚えやすいと思います。

特例贈与の税率

「特例贈与」とは直系の親や祖父母(直系尊属といいます)から、贈与する年の1月1日時点で20歳以上の子どもや孫に対して行う贈与のことで、税率が優遇されています。

特例贈与の税率は下表の通りです。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

表の一番右側、「控除額」というのは財産の額に対応する税率を掛けたあとに出た税金から控除する額のことです。

例えば、贈与した財産の額が500万円だった場合、

(500万円 × 20%) - 30万円 = 70万円

が贈与税の納付額になります。

一般贈与の税率

「一般贈与」とは、「特例贈与」以外の贈与のことをいいます。

すなわち親や祖父母から20歳未満の子どもや孫に贈与する場合や、義理の両親や祖父母、あるいはそれ以外の方からの贈与のすべてがこの「一般贈与」に該当します。

一般贈与の税率は下表の通りです。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

一般贈与で先ほどと同様に500万円の財産を贈与した場合、

(500万円 × 30%) - 65万円 = 85万円

となります。

特例贈与のときと比べて15万円税額が高くなっていますね。

ちなみに贈与税の税率は見てのとおり、めちゃくちゃ高くなっています。

1,000万円の財産を贈与すると一般贈与の場合で40%の税率となっています。これは日本において他のどんな税金よりも高い税率です。

これほど高い税率となっているのは贈与税という税金が「相続税」を補完する目的で存在しているからです。

贈与税の税率を高くしておくことで、

生きているうちにガンガン生前贈与をして相続対策をしよう!

という人があまりいなくなり、きちんと相続税を課税できるためこのような高税率が設定されています。

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度の概要

「相続時精算課税制度」とは2,500万円までの財産であれば贈与税なしで財産をあげられるという制度のことです。

ただしこの制度を利用できるのは60歳以上の直系尊属(実の親や祖父母、義理はダメ)から、20歳以上の子どもや孫への贈与のみです(養子縁組をしていれば血縁がなくても可)。

ただし「相続時精算」という名前のとおり、税金は相続のときに精算することになりますので税金が一切かからないかは相続のときになってみないとわかりません。

いずれにしても、贈与のときには2,500万円以内は無税で財産を譲ることができますので、自分の意思が明確なうちに財産の移転を早く進めておきたい場合などには有効な制度といえます。

相続についての詳細は別記事で詳しく解説しますが、相続にはかなり大きな「基礎控除」というものが設定されていてその額は相続人の数にもよりますが最低でも3,600万円(法廷相続人1名の場合)あります。

ですから、相続税を課税される方というのはデータが発表されているなかで最高は平成30年の8.5%(相続税を課税された人/亡くなった人)と1割未満しかいません。

したがって、見方を変えれば相続まで待っても結局相続税を課税されずに無税で財産を移転できる方は全体の9割以上いるともいえます。

ちなみに贈与財産が2,500万円を超えた場合には、その超えた金額に対して一律20%の贈与税を納付(これも相続時に精算されるので相続税がかからなければ還付されます)することになります。

たとえば、3,000万円の財産をこの制度を使って贈与した場合、

(3,000万 - 2,000万) × 20% = 100万円

の贈与税を納付することになります。

この一旦納めた贈与税は相続税の前払いという扱いになりますので、相続の際に納める相続税が無いか100万円より少なかった場合には還付を受けられることになります。

尚、還付を受けるためには相続財産が基礎控除の範囲内で通常であれば相続税の申告が必要ない場合でも、還付のための相続税申告を行わなければ還付を受けることができないのでその点ご注意ください。

相続時精算課税制度のメリット

贈与税をかけずに多額の財産が移転できる

何といってもこの制度の最大の魅力は「2,500万円以内であれば贈与税をかけずに財産を譲ることができる」という点でしょう。

また、2,500万円を超えた場合でも通常の贈与よりも圧倒的に低税率での財産移転が可能となるため生前贈与を行う際には是非とも検討したい制度といえます。

財産の価額を贈与時の価格で固定できる

相続時精算課税制度を使った場合、税金の精算はこの制度で贈与した財産を相続財産に含めて相続税を計算したうえで行うことになります。

ただし、この場合相続財産に加える額は贈与のときの価格となります。

現金であればいつであろうと価格は変わらないので関係ありません。

ですが「不動産」や「株」などの有価証券ではどうでしょうか?

贈与時の価格で固定できるということは、贈与したときよりも相続の際の価格が確実に上がっていそうな財産であればこの制度を使って財産を譲っておくことで相続税の節税にもなるのです。

また、株のなかでも特に未上場企業の株式については、一般に黒字企業であれば年数が経つほど「評価額」が出資当時の何倍(時には何百倍!)に上がっていく傾向がありますのでこの制度とは非常に相性がいいです。

未上場企業のオーナーで後継者が決まっている方は、是非この制度の活用について顧問税理士などの専門家に相談してみてください。

相続時精算課税制度のデメリット

暦年贈与が使えなくなる

一度相続時精算課税制度を使うと、別の年に行ったとしてもその贈与者からの贈与についてはすべてこの相続時精算課税制度の贈与として取扱われます。

そのため110万円の非課税枠もなくなってしまいます。

すなわち仮に最初の贈与で2,500万円を贈与したとすると、それ以降の贈与にはすべて20%の贈与税が発生するということです。

また、1回目で500万円、2回目で1,000万円など分けて贈与しても2,500万円の枠を超えるまでは無税、超えたら20%という点は変わりません。

そのため多額の財産をお持ちの方で、贈与の機会が複数検討される場合にはこの制度を使うかどうか専門家を交えて慎重に検討すべきです。

ちなみに暦年贈与の利用可否は贈与者(あげる人)毎に判断しますので、相続時精算課税制度で贈与を行っていない贈与者からは通常の暦年贈与での贈与ができますのでその点はご注意ください。

たとえば、お父さんから相続時精算課税制度で財産を譲り受けていても、お母さんからであれば暦年贈与で財産を受取ることができます。

自宅の土地の場合は損をする可能性が高い

土地の相続には「小規模宅地の特例」といって相続税の評価額を▲80%も減額できる制度があります(ただし面積上限があります)。

この制度の威力は大きく多くの方にとって最大の財産ともいえる自宅の底地の評価を大きく下げることができるため相続税の納税額に大きな影響を与えます。

実は相続時精算課税制度で贈与した「土地」にはこの制度が適用できません。

したがって自宅の土地を贈与する場合には、よほどの場合(北海道ニセコ地区のように毎年地価が2倍になっていくような状況など)でない限りは相続まで待った方が無難だと思われます。

相続時精算課税制度の申告に必要な書類

  • 受贈者(もらった人)の戸籍謄本または抄本
  • 受贈者(もらった人)の戸籍の附表で、20歳に達して以後の住所が確認できるもの(戸籍の附表は住民票のあった市区町村役場で取得可能ですので転居をされている場合は複数の役場から取り寄せとなる場合もあります)
  • 贈与者(あげた人)の住民票(マイナンバーなし)や戸籍の附表で、60歳に達して以後の住所が確認できるもの
  • 相続時精算課税選択届出書

上記を添付して贈与税の申告を、贈与を行った年の翌年2月1日から3月15日までに行えば相続時精算課税制度の適用は完了です。

尚、必要書類については上記の「相続時精算課税選択届出書」の様式にも記載されていますのでそちらもご確認ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

相続税の基礎控除範囲内に財産が収まりそうな方であれば、積極的に相続時精算課税制度を活用してお子さんやお孫さんに財産を移すことを検討されても良いと思います。

暦年課税のメリットは年齢や直系かどうかに関わらず年間110万円までは無税で財産を移転することができることです。

お孫さんやお子さんがたくさんいらっしゃる方、直系尊属以外の親戚などに財産を渡したい方などは暦年贈与の非課税枠110万円を積極的に活用しましょう。

受贈者(もらう人)がたくさんいれば1年で数百万円の財産移転も可能になります。その場合、相続税が心配な方には相続税対策にもつながってきます。

それぞれのメリットをうまく活かしながら、賢く「生前贈与」を活用していただければと思います。

相続では発生してからは、もちろん事前の「相続対策」が不可欠です。相続税を抑えることができるのはもちろん、亡くなった後に相続人間で揉める「争続(あらそうぞく)」を避けるためのアドバイスなども期待できます。

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うーざん
旧帝国大学の経済学部を卒業後、大手地方銀行に就職。法人融資、個人への資産運用アドバイス、相続対策等の業務に従事。 より顧客の近くで仕事をしたいと一念発起し銀行を退職。会計事務所に就職し、お金にまつわる様々な顧客の悩み解決に向け日々活動している。 またファイナンシャルプランナー資格と保険販売資格も保有しており、顧客の保険見直しなどの悩み相談にも乗っている。