一度に多額の経費をつくれることから、節税対策としても注目が高い役員退職金。
多額の経費が作れる一方で、安易に支給してしまうと後々税務調査で否認されて高額の追徴課税が発生した、などというケースは枚挙に暇がありません。
今回は現役会計事務所職員である私が、税務署に否認されない支給方法と税務上の上限額(目安)について解説していきたいと思います。
この記事の目次
役員退職金の上限額計算方法
役員退職金の計算式(功績倍率法)
役員退職金はいくら出しても経費にできるというわけではありません。
一般的に役員退職金の計算式として用いられるのは
「最終報酬月額」×「役員在任年数」×「功績倍率(1.0~3.0)」=役員退職金の支給上限額
というものです。
例えば
直近の報酬が100万円/月で25年間役員を務めた社長の場合、
100万 × 25年 × 3.0 = 7,500万円
が上限目安となります。
ところで、実は税務の世界ではよくあることですが、「この金額までなら支給しても認めますよ!」というお墨付きは法令上どこにもありません。
日本の税法は納税者に「解釈の余地」を認めており、あえてボーダーラインを明確化していません。
役員退職金の支給においても「不相当に高額な部分」は損金(経費)への算入を認めないとしているのみで、どこまでが相当でどこからが不相当かということは明示されていないのです。
とはいえ、上記の式で求めた金額は実務で広く使われているものであり税理士業界においても概ね妥当とされています。
よほどの高額などイレギュラーなことがない限りはまず大丈夫だと思って良いです。
最終報酬月額について
「最終報酬月額」とは文字通り退職前の最後の役員報酬の月額のことです。
ただし、注意していただきたいのは退職金をたくさん出すために直前の数年だけいきなり報酬を上げるということをすると、上記の式で算出した金額に収まっていても認められない可能性があります。
退職金をたくさん出すためにという意図がなかったとしても、直前で報酬が上がっている場合は直近3~5年程度の報酬の平均を取るなどした方が良いでしょう。
役員在任期間について
役員の在任期間は原則として取締役として登記されていた期間で算定します。この場合、年未満の端数は切り上げてOKです。
ただし、中小企業の場合で配偶者などの退職においては設立時に登記されていなかった場合でも、経営への重要な地位を占めていたことが客観的に立証されれば、登記されていなかった期間も含めて算定することを認めた裁判例もあります。
在任期間が短く上記の算式では金額が十分でない場合などは、税理士などの専門家に相談の上登記されていない期間も含めて支給することを検討してもいいかもしれません。
功績倍率について
功績倍率とはその会社への貢献度を数値化したもので、特段の事情などがなければ役職に応じて定めるのが一般的です。
具体的には
社長:2.5~3.0 専務・常務:2.0~2.5 平取締役:1.5~2.0
くらいが無難なラインです。
とはいえ過去の判例では、社長でも1.2倍程度までしか認められなかったケースや、逆に7.5倍もの高倍率が認められたケースもあります。
裁判までいくと同業他社や自社の業績など諸々の事情を総合的に勘案して判断されてしまうので、蓋をあけるまでどうなるか分からないというのが正直なところです。
ですが、通常の税務調査であれば社長で3倍程度であればまずは認められるケースが多いので目安にしてください。
役員退職金を支給するための準備
まずは「役員退職金規程」をつくろう
役員退職金を支給するためには、「役員退職金規程」を作りましょう。
退職金の金額算定に関する根拠を記載しておくことで、税務調査などがあった場合には根拠資料として提示することが可能になります。
オーナー会社で、役員さんもオーナー一族のみという場合には雛形はネット上に多数転がっているごく一般的なもので最低限、「誰に、いくら(金額の算定式)、いつ」払うかが記載されていれば十分です。
ただし、役員さんの中にオーナー一族以外の方もいる場合には規程を作ると後々困ったことになるケースがあります。
オーナー一族の役員であれば退職金で数千万から数億を支給するということも珍しくありません。
しかし一族以外の役員さんにあまりに高額な退職金を支払うのはちょっと・・・というケースもあると思います。
そのような場合に、安易に「役員退職金規程」を作成しその規定よりも少ない額で退職金を支払った場合、最悪その役員さんから会社が訴えられてしまいます(実際に訴訟となり数千万の退職金を支払ったという事例があります)。
ですから、「役員退職金規程」を事前に作っておくかはオーナー一族以外の役員の有無、もっと言うとオーナー一族とそれ以外の役員で退職金支給に差をつける可能性があるか、で決めたほうが良いでしょう。
「役員退職金規程」は退職金の支給に必須ではありません。
支給を決議する株主総会や取締役会の議事録に算定根拠が記されていれば法的に問題ありません。
まずは規程を作成する前に、自社で本当に規程を作るべきか考えてみてください。
支給にあたっては株主総会の議事録が必要
支給にあたっては、必ず退職金を支給することを決議した株主総会の議事録を作成しましょう!
税法では、経費に算入するためには「債務が確定している」ことが要件とされています。
難しい言葉ですが、要するに “支払う事実と金額が確定していないと経費にできませんよ” ということです。
それが確定していたことを後々、客観的に証明するために「議事録」を作成しておく必要があるのです。
支払うことだけを「株主総会」で決議して、細かい金額や支給方法などは「取締役会」に委ねるというケースもあるのでその際は株主総会と取締役会の2つの議事録を作成します。
オーナー企業などであれば株主=取締役のようなケースも多いので、こうした場合には株主総会の議事録のみあれば十分です。
ちなみにこの議事録ですが、金額が多額である場合は特に詳細に記載しましょう。
具体的には
- 金額とその算定方法
- 支給時期(〇年〇月〇日までになど)
- 支給方法(〇〇銀行の△△名義口座へ振込など)
これは必ず記載しておきましょう。
ちなみに、金額が多額になるので一括の支払が難しいという場合もあるかと思います。
その場合には支給時期を「〇年〇月〇日~△年△月△日まで毎月××円を支払う」などのように更に詳しく記載しておきましょう。
尚、退職金の分割支給は認められていますが手順をきちんと踏んでおかないと退職金として認められない可能性もありますのでご注意ください!
役員退職金の分割支給については下記の記事で解説しています。是非こちらもあわせてご確認ください。
>> 現役会計事務所職員が徹底解説!役員退職金は分割で支給できる!
まとめ
多額の経費を作れるため即効性の高い節税策として利用されることも多い役員退職金ですが、ポイントをきちんと押さえておかないと、後々税務調査で否認という事態にもなりかねません。
多額の支給をした数年内には高い確率で税務調査が入ります。
後で後悔することのないよう、本記事をしっかり読んで万全の態勢で役員退職金を支給しましょう!
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