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はじめに
こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
令和2年4月1日から様々なルールの見直しが行われています。
そのなかでも大きなものが「民法」の120年振りの改正になります。
当サイトでもそのうちのいくつか(配偶者居住権の創設や、保証人に関する変更)を取り上げてきました。
今回は「法定利率(ほうていりりつ)」の引下げについてお話していきたいと思います。
「法定利率」という言葉自体は日常生活において耳にすることはほとんどありませんが、実は私たちの生活に深く関わりのあるものです。
少しだけネタバレすると「法定利率」の引下げによって、
自動車保険などの損害保険料が「値上がり」することになります。
このように我々の生活に深く関わっている「法定利率」とはそもそも何なのかということと、引下げによって私たちの生活にどのような影響があるかについてみていきたいと思います。
法定利率とは
「法定利率(ほうていりりつ)」というのは、その名の通り「法」律で「定」められた「利率」のことです。
これだけではさっぱりですよね。
法定利率というのは、主に「遅延損害金(ちえんそんがいきん、支払が遅れた場合に払う延滞金)」などの算定に用いる利率です。
他には金利の定めのない貸付(そんな貸付はほとんどありませんが)の利率や、後で説明する損害賠償金の中間利息控除などに適用される利率になります。
「遅延損害金」というのは、クレジットカードの支払が遅れた場合などに適用される「延滞金」のことです。
改正前の法定利率は民事(個人と個人)が5%、商事(取引の相手の一方か双方が会社や個人事業主の場合)が6%となっていました。
これが改正後は、民事・商事ともに3%に引下げられます。
さらに以降3年毎に過去5年間の平均値による見直しを行うこととされました。
ちなみに、見直し幅は1%刻みと定められていますので過去5年間で前回の見直し時よりも1%以上の変動がない場合には利率の改定はありません。
延滞金の金利が5%から3%に下がることは単純にありがたいことのように思えます。
考えられるデメリットとすれば、商売をされている場合で裁判などで支払ってくれないお金を請求した場合に、支払が遅延したことで得られる利息が減少するといった点でしょうか。
あとは近年増えた消費者金融などの「過払い金訴訟」や、残業代などの「未払い残業代の請求訴訟」など裁判時に得られる金額が減少するといった点でしょうか…。
いずれにしてもこうした訴訟に関与することは稀ですし、利息が年2%変わったところでさほど大きな影響はありません。
問題は損害賠償額の算定における「中間利息控除」というものの影響がかなり大きい点です。
以下では損害賠償額算定の仕組みをみていくと共に、なぜ「法定利率」の引下げで多大な影響が生じるのかについてお話していきたいと思います。
損害賠償額算定の仕組み~逸失利益とは~
損害賠償請求というと、他人のモノを壊したり、他人の心や身体を傷つけたりした場合にその与えた損害に対してお金を支払う請求をする・もしくはされることをいいます。
モノを失くしたり壊したりした場合は単純です。そのモノの価値に見合うお金を支払うだけです。
問題なのはヒトを傷つけた場合です。誤って車で他人を轢いてしまってケガを負わせた場合、その損害は単純にケガの治療費や入院費用などにとどまりません。
例えば相手に後遺症が残って、それまで就いていた仕事を辞めなければいけなくなったとします。
その場合には、今後その仕事に就いていることで得られたであろう収入も含めて損害賠償請求の対象となります。
轢いてしまった相手が30歳で年収500万円だったとします。もしもその相手が仕事を辞めて無収入になってしまった場合、仮に65歳まで給料が変わらないとすれば、
(65歳 ー 30歳) × 500万 = 1億5千万円
が本来得られるはずだった収入になります。
この「本来得られるはずだった収入」というのが「逸失利益(いっしつりえき)」といって損害賠償額に上乗せされる金額になります。
上記は例ですので分かりやすくシンプルにしましたが、もちろん裁判ではもっと緻密に生涯の収入を計算します。
そしてここからがポイントですが、この「逸失利益」を計算するときに「中間利息控除」というものを控除します。
これは簡単にいうと「将来の何十年間にわたって少しずつ得られたであろう収入」を今一括で受取ることになるため「何十年間運用して得られるであろう利息分」を控除しますよ
というものです。
今はマイナス金利でもう無理ですが、ほんの数年前までは国債でも年利1%~2%のリターンを得られました。1億5千万円を年2%で運用できれば利息だけで毎年3百万円も受取ることができます。30年間では利息だけで9千万円にもなります。
また国債では単利ですが、もしも複利(毎年の利息分も元金に含めて運用すること)で2%の運用ができれば30年分の利息だけでなんと1億2千万円以上になります。
これではさすがに貰った人が得をし過ぎるので、一括で受取る分の「今後得られるであろう利息相当額」を割り引きますよ、というのが「中間利息控除」になります。
そしてこのときの利率が「法定利率」で計算されるのです。
つまり民法改正前(令和2年3月31日以前)は「毎年5%の利回りで運用できるよね」という仮定で「中間利息控除」を計算していたものが、
令和2年4月1日以降は「毎年3%の利回りで運用できるよね」という仮定で「中間利息控除」を計算する
ということになるのです。
つまり損害賠償して「貰う側」は、今までより控除される金額が少なくなるのでたくさんお金を貰うことができます。
先ほどの例だと
1億5千万円を5%で30年間運用して得られるであろう利息の方が、
1億5千万円を3%で30年間運用して得られるであろう利息よりも多いため、
民法改正前の「法定利率」で計算した「中間利息控除」の方が大きくなるためです。
この差はとてつもなく大きく、特に若い方や高収入の方を誤って死亡させた場合などの損害賠償額は大変な差がつくことになります。
22歳の新卒サラリーマンが亡くなった場合の平均的な逸失利益の例でいうと、
- <改正前 法定利率5%の場合> 約5,760万円
- <改正後 法定利率3%の場合> 約7,950万円
といった具合に2千万円以上の差が出るのです(データは法務省作成のパンフレットより)。
自動車保険や個人賠償責任保険の保険料が上がることに
こうした影響から当然のことながら、自動車保険などの保険料は今後値上がりすることが見込まれます。
ただ大手損害保険会社は概ね2020年1月の段階で消費税増税(8%⇒10%)とこの法定利率の引下げ分(5%⇒3%)を見込んで3%程度の保険料値上げを実施していますので、
この後急激に保険料が値上がりしていくということは、おそらくないでしょう。
またこの他にも影響がありそうな保険が、個人が他人や企業への様々な「損害賠償責任」を負った場合に保険料が下りる「個人賠償責任保険」です。
こちらはモロに「損害賠償」をするための保険商品ですので、保険料の値上げは避けられないでしょう(自動車保険の場合はヒト以外にも対物や自分の車両に対する保障も含まれている)。
ただし「個人賠償責任保険」の場合は、元々月数百円程度の保険料ですので値上げされたとしても金額的に家計に大きなダメージを与えるようなことにはならないでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
民法というのは私たちの生活に大きく関わっている法律です。
すでに4月1日にこうした私たちの生活に大きな影響を与えるような変更がなされています。
保険料の値上げは致し方ないところ(万一の場合におりる保険金も増えるということですので)ですが、むしろこれを機に自分自身の保障を見直すことが大切です。
先ほどの例のように若い人や高収入の人にケガをさせたり死亡させてしまった場合では、法定利率がたった2%下がっただけで数千万円も賠償額が増えてしまうことになります。
「個人賠償責任保険」にちゃんと入っているか、自動車保険の対人・対物保障は無制限になっているか(任意保険に入っていない人は今すぐ入りましょう!)、
きちんと確認しておくべきでしょう。
尚「個人賠償責任保険」を知らないという方は、こちらの記事で詳しく解説していますので、こちらも是非あわせてご確認ください。
以上、最後までお付き合いありがとうございました。