この記事の目次
はじめに
こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
新型コロナウイルスによる悪影響が各方面で出ていますね。
とくに経済界の影響は甚大で外出自粛によって飲食店や宿泊施設など様々な業界で業績悪化がみられます。
先日はコロナ・ショックによる金融市場への影響と、一般投資家として今どう動くべきなのかという記事をアップしましたが、今回はこれまたコロナ・ショックで大幅下落している原油価格についてお話していきたいと思います。
コロナ・ショックによる金融市場への影響と、一般投資家として今後どう行動すべきかについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、こちらもあわせてご確認ください。
世界4位の原油生産量を誇るイランで新型コロナウイルスの感染者数が1,500人を超えたとのニュースが話題になっています。
これは発生源とされる中国を除く国で最多の感染者数とのことです。
常識で考えれば、一大産油国であるイランでこのような事態が発生すれば原油の世界的な供給量不足への懸念から価格が高騰するのが「ふつう」ではないでしょうか。
マスクがなくなると思えば皆が買いに走って価格が高騰したのと同じです。
ではなぜ今原油価格がこれほど下落したのでしょうか?
不思議ですね。そこで今回は、ガソリンや灯油などの価格に直結し生活への影響も大きい原油価格の変動の仕組みについてみていきたいと思います。
先物相場とは何か
先物取引の概要
原油価格がなぜ今大きく変動したのか、そもそも原油価格変動の要素はいくつもあります。
そのなかでも今回の価格下落の主要な原因と考えられる先物相場、もとい先物取引とはなにかについてみていきたいと思います。
先物取引(さきものとりひき)とは、その名のとおり「今」ではなく少し「先」の取引を今契約することをいいます。
例えば
100ℓの原油を6か月後に1万円で購入します
というような契約を今行う場合、この取引のことを「先物取引」といいます。
6か月先の取引価格を今決めてしまうのです。
どうしてこのようなことをするのでしょうか?
先物取引には3つの役割があるといわれています。
- リスクをコントロールしやすくする機能
- 地域間での価格調整機能
- 需要と供給のバランス調整機能
以下ではこれら3つの中身について具体的にみていきたいと思います。
リスクをコントロールしやすくする機能(リスクヘッジ機能)
将来のリスクを回避するためにあらかじめ予防の手段を取っておくことを「リスクヘッジ」といいます。
先物取引の一番大きな意義はこの「リスクヘッジ」機能にあるといえます。
価格の変動が激しい商品を継続的に仕入れていると、相場状況により仕入値が変動し商売に支障をきたしてしまいます。
そこで将来の仕入れ値を固定できる「先物取引」を利用することで、仕入れ値を固定し商売上のリスクをコントロールするのです。
例えば今、原油の価格が1バレル50ドル、3か月後の先物価格が1バレル53ドルだとします。
世界情勢が不安定で将来の原油価格が上昇しそうだ
という場合には、今のうちに3か月後の先物取引を行って53ドルで仕入れる権利を押さえておけば仮に3か月後の原油価格が60ドルになっていても、自分は53ドルで仕入れることができますので仕入れ値が大幅に上昇することを回避できます。
これが「先物取引」のひとつめの機能である「リスクヘッジ」機能です。
地域間での価格調整機能
先物価格は世界に公表されていますので、一部のひとが恣意的(作為的)に価格を形成することができません。
つまり、現物(先物に対して「今」の取引のことを現物といいます)だけの取引の場合、今すぐ原油が欲しいAさんと、原油を持っているBさんという少数の取引参加者間での取引になることがあり、足元をみられて不当な高値で売りつけられる可能性があります。
それに比べて「先物取引」においては時間的な余裕もある取引であることに加え、価格が世界に公表されているため、こうした恣意的な価格形成がされにくく、かつ地域間の価格差も平準化されやすいという利点があります。
これが「先物取引」がもつ2つめの機能、「地域間の価格調整」です。
需要と供給の調整機能
「先物取引」では、数か月先の取引の権利を今確保できるため需要と供給のバランスが大きく崩れるのを調整する機能もあります。
たとえば、今回のコロナウイルス騒動ではマスクなどが大幅に不足しました。
これはマスクには「現物取引」の市場しかないため、
今出回っているものを押さえなければ将来マスクを手に入れることができなくなるかもしれない
と皆が考えたために必要な数量以上のマスクを買うという事態になってしまい市場からマスクがほとんどなくなってしまいました。
「先物取引」の市場があることで、将来の取引の約束を「今」できるためこうした需要と供給のバランスが過度に崩れる事態が起こりにくくなるという利点があります。
これが「先物取引」の3つめの機能である「需要と供給の調整」機能です。
先物市場のもうひとつの顔
さて、上記のような3つの機能を持った「先物市場」ですが、実はもうひとつ別の顔も持っています。
それは株などと同じく「投資(投機)市場」としての顔です。
「先物市場」の3つの機能をうまく利用すればその取引で利ザヤを抜いてお金儲けをすることも可能となります。
先ほどの事例、
今、原油の価格が1バレル50ドル、3か月後の先物価格が1バレル53ドル
という場合に、先物取引を行い3か月後に1バレル53ドルで買う権利を押さえます。
そのうえで3か月後の「現物価格」が1バレル60ドルになっていたとすれば、53ドルで購入した原油をそのときの相場の1バレル60ドルで売れば1バレルあたり7ドルの利ザヤがとれます。
こうしたことを繰り返して現在の価格である「現物価格」と将来の価格である「先物価格」差額で利益を得る取引が活発に行われています。
そしてこうした「投資(投機)」のための取引のボリュームが実は圧倒的に多いというのが「先物市場」のもうひとつの顔なのです。
なぜ今回のコロナ・ショックで原油価格が大幅に下がったのか
それではようやく本題です。
なぜ今回のコロナ・ショックで原油価格が大幅に下がったのでしょうか?
原油の「先物市場」にも他の先物市場(先物市場にもたくさんの種類があり、原油以外にも金などの貴金属類や穀物など様々な先物市場があります)と同様「投資(投機)」のお金がかなり多く入ってきています。
こうした「投資(投機)」のお金は平常時には「先物市場」のような価格変動の大きな市場で動かして利益をとっています。
ところが今回のコロナ・ショックのような世界経済が減速するようなリスクが顕著になると、いったん自国通貨や金(ゴールド)などあまりリスクのない資産に投資先をうつしてリスク回避を図ります。
ちなみに金(ゴールド)が安全資産とされているのは、世界中で埋蔵量が限られていて希少価値が高いため、どんな事態になっても一定以下には価値が下落することはないと考えられているからです。
もうひとつついでにいうと、日本の通貨である「円」もよく「リスク回避のため安全資産とされる円が買われて円高になりました」というような言い方をされますがこれは正しくありません。
円が買われたというよりは、金利が低く普段は誰も円で運用していないところ、リスク回避姿勢が鮮明になるといったん円に戻す、という動きが入るため一時的に円高に振れるのです。
金(ゴールド)についても似たような側面があります。金というのは「金利」や「配当」などは一切生まないため運用にはあまり適しません。
ただし今回のようなリスク回避時には価格の下限があると考えられるため金(ゴールド)が一時的に買われるという構図になっているのです。
話がそれましたが、今回のコロナ・ショックで原油価格が大幅に下がった原因は
運用のため原油の「先物市場」に大量に入りこんでいたお金が、一時的に金(ゴールド)などの安全資産や、円やドルなどの自国通貨に退避したため
です。
このことからもいかに「先物市場」で動く「投資(投機)マネー」のボリュームが大きいかがわかりますね。
本来であれば、冒頭でもお話したとおり、
イランのような一大産油国がコロナウイルスの大量感染者を出せば、生産量が減少するとの読みから原油価格が高騰する
というのが実需筋(実際に原油を必要としている人たちのお金の動き)のあるべき姿です。
ですが、これとはまったく逆の動きになっていることから、実需筋をはるかに上回る「投資(投機)マネー」が動いているということがよく分かります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「原油価格が変動する仕組みはいくつかあります」と冒頭にも申し上げた通り、原油価格変動の要素は他にもあります。
数年前に「シェールガス(シェールオイル)」というものが大きく注目されたときには、今回お話した仕組みとはまったく異なる背景で原油価格は大幅に下落しました。
このあたりのことについては、また別の機会にでも記事にできればと思います。
まずは今回のコロナ・ショックで本来であれば上がるはずの原油価格が大幅下落した背景について、ご理解いただけたでしょうか。
生活に欠かせないガソリンや灯油、軽油などの油ですが、このような仕組みで価格が変動しているのです。
知識がないと不用意に「デマ」に飛びついてしまうことにもなりかねません。
しっかりと知識を身に付けて、自分の身は自分で守れるようになっていきたいですね。
4月20日のNY原油先物市場では、史上初めてマイナス値での取引成立となりました。
「原油価格マイナスとはどういうことか」や、「今後の見通しが気になる」という方はこちらの記事で詳しく解説していますので、こちらも是非あわせてご確認ください。
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