この記事の目次
はじめに
こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
上場企業といえば以前は圧倒的な価値を持つ存在であり、企業体としては皆から尊敬される存在でした。
また、上場企業に就職することこそがサラリーマン人生を決定づけるほど重要な意味を持っていた時代もありました。
今はどうでしょうか?
オリンパス、東芝、そして日産。上場企業の不正は頻繁に報道され、その業績も浮き沈みが激しくこの会社に入れば「一生安泰」などという企業はもはや存在しません。
かつて憧れの職業のひとつであった銀行員もその人気は凋落してしまっています。メガバンクにいたっては大量の人的リストラの真っ只中にあります。
そこで今回は、企業側の視点から「上場」することのメリットとデメリットについて分析し、かつてのセオリーであった成長したら上場するという流れが今後もセオリーであり続けるか
ということについて考えてみたいと思います。
尚、銀行が斜陽産業となってしまった理由についてはこちらの記事で詳しく解説しています。こちらも是非あわせてご確認ください。
上場することのメリット
多額の資金調達ができる
上場することのメリットの1つめは、「多額の資金調達ができること」です。
上場というのは要するに会社を市場に公開して、株を誰でも自由に売買できる状態にすることです。
非上場の企業というのは定款で「株式の譲渡制限」が定められていることが多く、株を自由に売買することができません。
上場することで新たな株を発行するか、既存の株主(創業者一族など)の持ち分の一部を売り出すことで会社は多額の資金調達が可能となります。
例えば、
1株3,000円で5万株を売り出すとすると、1億5千万円の資金調達が可能になります。
尚、売り出しの際の「公募価格」はその会社の実力や既存の似た業種の上場企業などを参考にして決定されるため、目標とする調達額を確実に調達するためには売り出す株数をある程度確保しなければなりません。
しかも株式公開の場合は、投資家はその会社の将来性を買って資金を出してくれるため、現状が大赤字であっても多額の資金を調達できることもあるというメリットがあります。
この点は、現状の返済能力に重きを置いて審査を行う金融機関からの借入にはないメリットですので、創薬ベンチャーなど資金化までかなりの時間を要する業種には大きなメリットといえます。
社会的な信用を得やすい
上場をするにあたっては、業績はもちろんですがそれ以外にも様々な審査があります。
法令遵守(コンプライアンス)の体制整備や実際の実施状況、あるいはリスク管理や情報開示の体制はきちんとしているか等、
業績や規模だけではない会社組織として信頼に足るものであるかといった観点からも厳しい審査を受けなければなりません。
また、東京証券取引所など実際に上場を審査する機関に申請する前に、審査手続きをサポートする証券会社からも事前審査を受けることになり、誰でも上場できるというわけではありません。
上場には準備期間を含めて最低3~5年程度はかかるのです。
こうしたハードルを乗り越えた企業だけが、上場することができるため証券取引所に「上場している」というだけで社会的な信用を得やすくなります。
採用面でもいまだ有利
近年は新卒でベンチャーや優良な中小・中堅企業に就職する方も増えてきたとはいえ、いまだ採用面で上場企業の優位性は健在です。
いくら優良な企業であっても、その会社の「存在」を知ってもらえなければ就職先の候補にすらなることはできません。
したがって、上場することで得られる知名度は採用面でも有利に働くことになります。
またこれも近年の傾向ですが、就職活動は親子で取り組むということも増えてきています。
企業側としても親向けの就職説明会を実施するなど、まずは親に認めてもらうということが採用戦略上重要となってきています。
親世代としては、いまだ「上場企業信奉」が強い方も多くこの面でも上場企業というレッテルが有利に働く傾向があるのです。
AIによる仕事の代替が叫ばれる一方、優秀な人材の取り合いは苛烈を極めています。
主にAI人材などを中心に、新卒で1千万円以上の年俸を提示する日本企業も複数出てきています。
こうした競争面で、間違いなく上場企業の看板と資金力が優位に働くことは否めないでしょう。
創業者利益の実現
創業者にとって上場で得られる経済的な利益も大きなメリットのひとつといえます。
創業者として資本金を投じ、様々なリスクを乗り越え、身を粉にして会社を大きくしてきた結果、
会社は「上場」という新たなステージに立ったわけです。
その際に保有している株式は出資当時の数百倍といった大きな含み益を抱えている場合が多く、その利益を実現(キャッシュに変換)することができる最大の機会が株式の上場になります。
先日ZOZO創業者の前澤氏が創業者として保有していたZOZO株をヤフーに数千億円で売却し話題となりましたが、あれも上場したことで実現した「創業者利益」のひとつといえます。
上場することのデメリット
では、上場することのデメリットとは何なのでしょうか?
上場することによるデメリットは大きく3つあります。
以下でその内容についてみていきたいと思います。
高い資本コスト
上場すると、新たに株式を発行(あるいは既発行分を市場で売却)して資金を調達することになります。
株を発行して調達すると一見金利がかからないため、銀行などから借入するよりも安くお金が調達できるようにみえます。
ですが、株式には実は借入よりもずっと高いコストがかかっているのです。
株を発行すると、投資家からはその出資額に見合う「配当」を要求されます。
これ自体は仕方のないことですが、問題はその率です。
細かい説明は省略しますが、
株式で調達した場合配当などの調達コストが5倍~10倍程度、借入より高くなる
というデータがあります(2015年内閣府調査 企業の資本コスト動向より)。
こうした高い資本コストを払ってまで、株式で調達する意義は薄まってきているのではないでしょうか。
また、株式での調達が借入に比べて厄介なのは、元本が変動するという点です。
借入は金融機関などからの借金ですが、基本的に借り入れた時点から元本が減ることはあっても増えることはありません。
しかし、株式で調達を行った場合は企業が利益をあげるほど株価は上昇していきます。
高い資本コストを減らすために株式での調達を抑える方法は自社株買いなどで市場に流通する株式を減らすしかありません。
ですがこの場合にも、調達時よりも株価が上昇していた場合には自社株買いで社外に流出するお金は調達額を上回ってしまうことになります。
アメリカではスターバックスやマクドナルド航空機メーカーのボーイング社など、名だたる企業が自社株買いによって債務超過に転落するという異常事態に陥っています。
手元のキャッシュは潤沢にあるためすぐに企業がどうこうなるということはないようですが、今すぐに解散したら企業の資産を全部換金しても負債を返しきれない債務超過状態にあるというのはやはり異常であり、中長期でみて企業にとってもリスクであることは否めません。
アメリカという国は机上の計算がいきすぎて「常識」で分かるようなことが分からなくなってしまい暴走した結果大惨事を起こす常習犯です。
このようなアメリカ発の株主還元策を過度に重視した企業経営には多大なリスクが伴うことを十分認識しておくべきです。
そのため、どのくらいのお金を市場から調達すべきなのかは慎重に検討する必要があります。
超短期(3か月毎)での結果を求められる
個人的にはこれが上場企業の最大のデメリットだと考えています。
上場をすると四半期毎(3か月毎)に決算を開示することになります。
この決算の内容で株価が上がったり、下がったりするため経営者にとっては3か月毎に結果を出さなければならない状況になってしまいます。
株価の上下したからといって、ただちに会社の業績や財務内容に影響があるわけではないので放っておけばいいという方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、株価の下落が続けば最悪経営者は株主にクビにされてしまうこともありますのでどうしても短期的な成果を求めざるを得なくなってしまいます。
そのため、中長期的な視点に立ったビジョンが持ちづらく、即効性の高い「コスト削減」など中長期的な成長に繋がりにくい施策を選択しがちになります。
それでもまだ利益といった「結果」が出ているうちはいいのですが、行き詰った末にいきつくのは「粉飾」という架空の利益計上になります。
いずれにしても、3か月毎に結果を求められるというのは経営者側の視点に立ったとき、決していいところばかりではないということを頭に入れておくべきでしょう。
経営の意思決定のスピードが大きく落ちる
株式を公開し上場すると、会社の重要な意思決定は株主総会の決議を経て行うことになります。
いくら代表取締役といえど、トップダウンで様々なことを決められるわけではなくなってしまいます。
この点は、第三者の視点が入ることで会社の経営に透明性が増すことになるという点ではメリットともいえます。
また株主は基本的に株主利益を最優先に考えますので、オーナーの個人的な利益など会社の利益と相反するようなことができなくなるという点でもメリットはあるかもしれません。
一方で、株主とはいえ基本的には「経営の素人」が会社の経営に口を出してくることになります(言い方が悪くてスミマセン・・・)。
また、先ほど株主は株主利益を最優先させると言いましたが、株主利益と会社の利益が反することもあります。
例えば代表的なもので言えば「配当」などがそうです。
株主利益を最大化させようと思えば、「配当」はできる限り多い方がいいということになります。
一方で、会社は稼いだ利益を次なる事業へ配分し収益を上げ続けることが必要になるため、「配当」はできれば株主が納得するギリギリのラインでおさめたいはずです。
もちろん株主が皆ものわかりがよく、会社の利益を最大化させることが中長期的にみれば株主利益を最大化させることにも繋がるはずだ
と思ってくれれば何も問題はないのですが、株主の皆が中長期で株を保有してくれるわけではありません。
買った株をできる限り短期で売り抜けて利ザヤを取れればそれでいい
という株主だっています。
そうなるとどうしても株主と企業の利益が相反する形の意思決定も出てきてしまいます。
そのため株主を説得するために様々な根回しや根拠の提示など、意思決定のために多大な労力と時間を取られてしまうことになるのです。
ビジネスはスピードが命です。
こうしたなかで意思決定のスピードが遅くなってしまうことは大きなデメリットといえるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
上場には大きなメリットがある一方、会社経営の根幹を揺るがすデメリットも存在しています。
こうしたデメリットをある程度コントロールするために、最近のIPO(新規上場)では市場からの調達を極力抑えた上場も目立ちます。
上場という看板だけを得るための株式公開は「市場の軽視」という批判もありますが、筆者には非常に合理的な選択にうつります。
上場は目的ではなく、手段です。
自社の経営にとって何が最適化を見失わないよう、上場のメリット・デメリットをきちんと理解しておきたいところですね。
最後までお付き合いありがとうございました。
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