こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
公正取引委員会が「銀行間の送金手数料の是正」を求める内容の報告書をまとめたことを受けて、銀行業界は今後の対応の協議に入りました。
全銀協(全国銀行協会)は今後1年程度をかけて「適正な手数料水準」について話し合っていくとのことです。
本記事では今後の送金手数料が値下げされる可能性について検討していきたいと思います。
報道等では「銀行間の送金手数料」のみが殊更に公取委から問題視されたような切り取り方をされていますが、実態は少し異なります。
今回の公取委の報告書は「フィンテックを活用した金融サービスの向上に向けた競争政策上の課題について」という趣旨で、様々な観点からフィンテックによる金融サービス拡充の障害となっている事象を検討・検証しているものです。
この記事の目次
「銀行間の送金手数料」とは
今回やり玉に挙げられているのが、「銀行間の送金手数料」というものです。
これはA銀行からB銀行の銀行同士や、あるいはLINEで別の人に送金するなどの場合に送金をする銀行と受ける銀行の間で発生する手数料です。
窓口やATM、ネットバンクを利用した振込の際に発生する「振込手数料」とは別物です。
別物とはいっても、この「銀行間の送金手数料」を顧客に負担してもらう意図もあり「振込手数料」が設定されているので、根っこの部分は同じともいえますが。
報道等でもご存知の方も多いかもしれませんが、この「銀行間の送金手数料」は本来であれば銀行同士の話し合い(契約)で個別に設定されるという建前にはなっているものの、
実際はほとんどすべての銀行で
- 3万円未満117円(税抜)
- 3万円以上162円(税抜)
で統一されています。
しかも今ほど電子化が進んでおらず、何事も人の手を介して事務を行っていた時代から40年以上変更されていなかった
ということもあり「おかしいのではないか」という論調で報道がなされています。
確かに一理あると思います。
でも本当に「事務コストに見合わないから下げるべき」というのは正しいことなのでしょうか?
「送金手数料」は高すぎるのか
果たして本当に「銀行間の送金手数料」は高すぎるのでしょうか?
今回の公取委の報告書を読むと分かるのですが、現在の全銀システム(銀行間の送金を仲介するためのシステムで全国の金融機関が利用している)の利用料等を振込件数で割ると、
1件当たりの「全銀システム」に係る利用料は数円程度
とのことです。
コストはシステム費用だけではなく当然銀行側での人件費や事務コストもかかってきます。
報告書ではある銀行へのヒアリングへの回答として、
費用のほとんどは②銀行のシステムコストであったほか,その水準は振込金額を問わず同一であり,最も高くても現行の銀行間手数料の半分以下であるとの回答があった
公正取引委員会 QR コード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書 より
という記載があります。
すなわち事務コストを含めても「1件数十円程度」のコストであるにも関わらず、
- 3万円未満117円(税抜)
- 3万円以上162円(税抜)
という手数料水準は高くてけしからんと言いたいわけですね。
でもサービスの価格って「原価ぎりぎり」じゃないとおかしいんでしょうか?
例えば水道やガス機器、電気機器などが壊れてしまった場合に修理業者を呼んだら、「出張サービス料」で5千円前後取られたりしませんか?
これも上記の理屈でいえば、
原価は移動にかかる車のガソリン代や出張してくる方の人件費くらいですね。
人件費は移動時間も含めると高くみても2時間で2千円~3千円といったところでしょうか。
ガソリン代は数十円から数百円程度ですね。
だから5千円の「出張サービス料」はあり得ない!
となるのでしょうか?
もっと分かりやすい事例でいくと、家庭用プリンターなどのインクや、安全カミソリの替刃などは最たる例ですね。
替えインクや替刃はたったの数色・数枚で何千円もしたりします。
原価は正確にはわかりませんが、千円どころか数百円もしないでしょう。
それが替えインク1色2千円とかで売っていたりします。
個人的にはこれから比べるとかわいいものだという気はします。
ただ今回の報告書の狙いは顧客向けの「振込手数料」というよりは、フィンテック事業者が送金する場合の手数料の引下げという点にあります。
この観点からいくと引下げはやむなしといったところになりそうです。
狙いはフィンテック事業者による決済サービスの拡充
冒頭にも書きましたが今回の公取委の報告書の狙いは、
「フィンテック事業者による金融サービスの向上」を妨げるような環境がないかを確認し、問題があれば是正を促すということです。
今回の「銀行間の送金手数料」で特に想定されているのは、「〇〇ペイ」などの決済事業者だと思われます。
「〇〇ペイ」などで顧客から支払を受けたお金は、後日「〇〇ペイ」などのサービスを運営する事業者からまとめて送金されます。
この送金の頻度が15日毎であったり、10日毎であったりするわけですが、
この頻度を例えば5日おき、あるいは翌日など間隔を短くするほど店舗(〇〇ペイを設置している加盟店)側の利便性が向上することになります。
そうなると設置を考える加盟店も増え、政府が進めたいキャッシュレス決済の割合も高まっていくでしょう。
この頻度を高めるうえでハードルとなっているのが、「銀行間の送金手数料」です。
「〇〇ペイ」などのサービスを運営する事業者から、加盟店側に送金する際にも「銀行間の送金手数料」が課されています。
そのため頻度を上げることによるコスト負担が大きく、キャッシュレス決済の比率向上を妨げている
ということを今回の公取委の報告書では言いたいのです。
要するに「銀行間の送金手数料」が妥当かどうかという話よりも、
今の水準ではキャッシュレス決済を推進するために都合が悪いから下げなさい
という銀行界への政府からの働きかけだと捉えるのが正しい見方なのでしょう。
※公正取引委員会は、内閣府の外局であり今回の調査にもほぼ間違いなく政府の意向が働いています
銀行間の送金手数料は下がるのか
今回の公取委の報告書を受けて「銀行間の送金手数料」はほぼ確実に下がるでしょう。
近年は政府が民間事業者の価格形成にまで介入するようになってきています。
直近では「携帯料金の引下げ」でしょう。
通信事業者というのも「許認可事業」です。全国満遍なく質の高い通信サービスを展開できる事業者と認められて「電波の割り当て」を貰わないと通信事業者にはなれません。
現在はドコモ・au・ソフトバンク・楽天の4社のみが政府から電波の割当を受けています。
それ以外の「格安sim」といわれる事業者は、上記4社(現状は楽天除く3社)から電波を「借りて」サービスを行っています。
そしてご存知のとおり、銀行も「許認可事業」です。免許を取り上げられたら商売ができない事業者であり、今回の公取委の報告書は「事実上の値下げ要請」と同義であり何らかの形で値下げが行われることは間違いないでしょう。
ただ、完全自由化という形になることは考えにくく、全銀協で足並みを揃えて一律の値下げとなることが予想されます。
価格によって手間が変わるはずはないということも報告書では述べられている(銀行からのアンケート回答として記載されている)ので、3万円という金額を挟んでの手数料の違いはなくなるだろうと考えられます。
まとめ
今回の公取委の報告書を受けてほぼ間違いなく「銀行間の送金手数料」は下がるでしょう。
またこうした「原価」が引下げられることで、副次的に「振込手数料」も引下げとなる可能性はあるでしょう。
銀行というのは「銀行法」や「銀行業法」という法律で、「やっていいこと」「守らなければいけないこと」がガチガチに決められています。
例えばつい最近法律が変わって要件が緩和されるまで、営業日すら自由に決められませんでした。
最近では地方の銀行の店舗などでは、隔日営業などの独自の営業日で営業するところもでてきています。
また顧客の大切な資金を預かる金融機関として、銀行では「銀行業」に関係ある業務しかできないことになっています。
銀行という間接金融の必要性が薄れサービスの低料金化も進むなか、政府としては値下げを迫るだけではなく、この辺りの「制約」を緩め、
銀行でも様々なサービスを提供できる環境を整えていって欲しいものです。
以上、最後までお付き合いありがとうございました。
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