この記事の目次
はじめに
こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
アメリカでは現地時間の3日にFRB(連邦準備制度理事会、日本でいう日銀)による0.5%の利下げが実施されました。
しかし、この利下げに対し市場は発表当日の3日には前日比▲700ドル超の下落と冷淡な反応でした。
その後4日には過去2番目の上げ幅となる1,200ドル弱の前日比プラスで取引を終えましたが、翌5日には再び▲1,000ドル弱の下落となるなど市場は落ち着きを取り戻すどころか、逆に大荒れとなっています。
原油相場をはじめとするコモディティー(商品)市場も大幅に下落するなどいまだ落ち着きを取り戻す気配がない市場においては、利下げ間もないにも関わらずすでに3月中の追加緩和が既定路線との見方になってきています。
FRBの利下げが空振りに終わった理由については、こちらの記事で詳しく解説していますので、こちらも是非あわせてご確認ください。
また、今回の原油相場大幅下落の要因については、こちらの記事で詳しく解説しています。
利下げはもちろん、景気を刺激する(あるいは下支えする)ために実施するのですが、その副作用についてはあまり表立って議論されることがありません。
そこで今回は、利下げがはらむ重大な副作用についてお話していきたいと思います。
金利が下がることによる副作用とは
銀行の収益悪化
金利が下がることによる副作用として、最初に浮かぶのはこれではないでしょうか。
「利下げ」の詳細については別記事で書いていますので割愛しますが、
「利下げ」とは国の政策金利という預金や貸出など様々な金利の指標となっている金利を下げることをいいます。
つまり利下げにより世の中の金利が下がると、当然のことながら銀行の貸出金利も下がることになります。
これによって銀行の収益環境が悪化することが、「利下げ」の1つめの副作用になります。
収益が悪化したら他の何かで補わなければなりません。
銀行が収益を上げる(補う)とすると、リスクの高い融資に取組むか、金融商品の販売などの手数料収入を上げるか、株式や債券などの購入による運用を強化するかといったところになります。
いずれにしても、景気悪化局面では大幅に損失が発生する(金融商品の手数料はなくなるだけですが)ことになるため、こうしたリスクの高い業務の割合はあまり高くしたくないところです。
ところが今の日本のように長くマイナス金利の状況が続いたりすると、否応なしにこうした業務の比重が上がってくることになります。
利下げの結果景気が回復してくれれば良いのですが、あまり効果が出ないとなると徐々に金融機関は内部に爆弾をたくさん抱えることになってしまいます。
- 貸出金利が下がることで銀行の収益が悪化する
- その結果、銀行がリスクの高い業務の比重を高くする
- 景気悪化局面ではこれらのハイリスク業務に多額の損失が出ることになる
このような流れで銀行の経営が悪化していくことが、「利下げ」の1つめの副作用になります。
信用力の低い人でもお金が借りやすくなる
「利下げ」の2つめの副作用とは、
金利が下がることで、信用力の低い人でもお金が借りやすくなるという点です。
ローンの金利とは本来は、
リスクに見合ったものでなければなりません。
わかりやすくいうと、
同じくらいの信用力の100人に100万円を貸し出す場合、
その集団の中でお金が返済できなくなる人は全体の3%いるとします。
この場合、全員に金利3%以上で貸し出しすれば、銀行側は回収できなくなる可能性のある金額も含めて利息で保全することができます。
つまり
100万円 × 3% × 100人 = 300万円
100人中返済ができなくなる人は3%で3名なので、回収不能のお金が300万円
これが釣り合うところが銀行が損をしないライン(わかりやすくするために銀行の利益や人件費などの経費は考えていません)になります。
仮に同じような100名の集団で、全体の10%が返済不能になるとしたらどうでしょうか?
金利は10%以上とらないと銀行は貸し出しできないということになりますね。
今の時代、こんな金利で借りる人はいないので取引が成立せずにお金は借りられないということになります(サラ金などの利息が高いのも理論上はこういう理屈です)。
ところが、「利下げ」によって世の中の金利が下がるとどうなるでしょうか?
普段であれば5%、10%という金利を払わなければ借入できない人たちが2%や3%という金利で借入できてしまうのです。
実はこうした金融緩和によって普段借入できないような人が借入をたくさんしてしまったことが、かつて「サブプライムローン問題」として日本でも知られ、2008年の世界的な金融危機の根本の原因となった出来事に繋がったのです。
「サブプライムローン問題」の詳細については別記事で解説していますが、要するに本来であれば借入できないような人がたくさんの借入を行い、さらにそのローンが細切れになって世界中に投資商品として販売されたことが原因でした。
「サブプライムローン問題」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。こちらも是非あわせてご確認ください。
実は金利が下がって借入をしやすくなるのは個人だけではありません。
企業においても、本来は社債などを発行して一般の投資家からお金を調達することが難しいような会社が社債を発行できてしまうのです。
社債には「格付け」というものが付与されており、この格付けによって投資のリスク度合いが示されています。
この「格付け」が低いと誰も購入してくれないため、普段は社債を発行できないかめちゃくちゃ高い金利で調達しなければなりません。
それが「利下げ」によって低い金利でも調達できるため、こうした信用力の高くない企業の社債も市場にたくさん出回ることになります。
これらが、「利下げ」の2つめの副作用になります。
投資家も金融機関もよりリスクを求めるようになる
3つめの副作用は、1つめと2つめの結果生じることです。
世の中の金利が下がり、ローンや社債の金利が下がってくると、当然それらの商品を購入している投資家の利益も下がることになります。
金融機関以外の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、ローンも投資商品として売買されています。
元本が返済されて金利も得られる、そしてそこに不確実性(元本が返ってこないリスク)があるため投資商品として成立するのです。
当サイトでは何度もお話してきましたが、
投資の世界では「リスク」とは振り子の振れ幅のことです
振り子は右にも左にも同じ幅だけ振れます。片方だけ大きいということはあり得ません。
投資のリスクもこれと同じで10%価格が上昇する可能性がある商品には、同じく▲10%の損失が発生する可能性もあります。
金利が下がってくると、投資家や金融機関はより高いリターンを求めて通常では手を出さないようなハイリスクな商品の購入も行うようになります。
好景気のあとに必ずバブル崩壊のような大きな金融危機を迎えるのはこうした投資家のリスク選好度が極限まで高まった結果起こるのです。
日本のバブル崩壊、アメリカのITバブルの終焉、リーマン・ショック、そして今・・・
現在もコロナ・ショックにより相場が荒れる前には世界的に空前の株高で、日経平均株価はリーマン・ショック以前11年振り、アメリカNYダウ平均も史上最高値圏で推移するなどしていました。
投資家のリスク選好度合が今また極限まで高まってきているのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「利下げ」が行われると、一般に景気の下支え要因となる期待が高まり株高など良いニュースばかりに注目が集まります。
たしかにそれは、利下げのプラスの効用でありこういう危機時にこそ必要な対応であることは間違いありません。
一方で何事にもプラスの側面があれば、マイナスの側面もあります。
マイナスの側面をしっかりと理解したうえで、流れてくる情報だけに振り回されないようになることが大切だと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
尚、株は下がったときこそ買い時です。コロナ・ショックで市場が荒れている今こそどう動くべきかについてはこちらの記事で解説していますので、こちらも是非あわせてご確認ください。
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