この記事の目次
はじめに
こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
コロナ・ショックと呼ばれる新型コロナウイルスによる感染症の影響が世界的に広がっています。
株式市場は連日荒い値動きとなっており、この数日間の間にアメリカNYダウ平均株価は過去最大の上げ幅と過去最大の下げ幅の両方を記録しました。
アメリカの中央銀行である「FRB」ではこうした市場の動揺沈静化に向けて0.5%の利下げを実施しましたが、いまだ市場は落ち着く気配をみせていません。
FRB利下げが空振りに終わった理由については、こちらの記事で詳しく解説していますのでこちらも是非あわせてご確認ください。
そんななか市場はすでに3月中の再利下げを織り込みはじめている状況です。
「利下げ」には景気停滞局面で景気を刺激する良い面がある一方で、重大な副作用もあります。
実はアメリカFRB、EUのECB、日本の日銀など世界の中央銀行が揃って金融緩和政策に走った数年前からこの副作用はすでに起こり始めていました。
金融緩和でダブついたマネーと、低くなった金利がより高いリターンを求めてよりリスクの高い投資先へと集中していっているのです。
今日はそんな投資マネーの代表的な投資先となっている「ハイ・イールド債」について、その概要とリスクを詳しく解説していきたいと思います。
ハイ・イールド債とは?
まずは、「ハイ・イールド債」とは何かということからご説明していきます。
イールド(yield)とは日本語で「利回り」という意味で、ハイ(high)は「高い」という意味ですから、
「ハイ・イールド債」は直訳すると「高い利回りの債券」ということになります。
債券というと企業が発行する社債や国が発行する国債などが代表的ですが、「ハイ・イールド債」は基本的に企業が発行するものがほとんどです。
「高い利回りの債券」というと一見優良な投資先のように思えますが、問題はなぜ利回りが高いのかという点です。
社債は企業の「借金」の一種です。
社債の金利が高い=利回りが高いということは、社債を発行する企業側からみれば高い金利で借入を行っているということになります。
借入する側からしたら借金の金利は低ければ低いほどいいですよね?
でも
低い金利では誰もその会社に貸してくれない=社債を発行できない
から
高い金利で社債を発行せざるを得ないのです。
したがって「ハイ・イールド債」というのは、ただ単純に「利回りが高い債券」というわけではなく、
「信用力が低く高い利回りを提示しないと社債が発行できない企業の社債」
ということになります。
具体的には社債には「格付け」というものが付与されているのですが、この格付けが
「BBB(トリプルビー)」を下回る水準の企業の社債を「ハイ・イールド債」と呼んでいます。
ちなみに格付会社はいくつかあり、会社によって格付けの呼び方は変わります。上記の「BBB」という表記を用いていない格付会社もありますが、意味合いは同じことですのであまり気にしなくて大丈夫です。
もっと分かりやすくいうと
「ハイリスク・ハイリターンの社債」
のことを「ハイ・イールド債」といいます。
格付け会社による格付が「BBB」以上の債券を「投資適格」債券といいます。これを下回る債券は投資には向かない債券ということで、「投機的債券」や「ジャンク(くず)債」という呼び方をされたりすることもあります。
日本では近年でいうと、アメリカの原発会社の巨額損失や不正会計問題で業績が悪化した「東芝」が、一時この投機的水準まで格下げされました(2020年3月現在は投資適格水準であるBBB-まで戻しています)。
いずれにしても、先行きに不透明さが残る企業の発行する社債という理解をしていただければ良いと思います。
なぜハイ・イールド債は人気なのか
それではなぜこのように「ハイリスク・ハイリターンの社債」であるハイ・イールド債が人気なのでしょうか?
「ハイ・イールド債」がこの数年間非常な人気を誇っていた理由は、
端的に言うと
「利回りの高さ」
につきます。
各国の中央銀行が金融緩和政策の下、政策金利を0~マイナス付近という低い水準に置いているため優良企業の社債などは軒並み低い利回りとなっています。
日本でも昨年トヨタ自動車系列のトヨタファイナンスが3年間の発行時利回りゼロという社債を発行し話題になりました。
なぜこのような社債が成立するのか詳しい説明は割愛しますが、金利が低下しているなか購入した金額より高値で売れれば途中で売却益が得られるという目論見や、
金融機関は日銀当座預金の一部にマイナス0.1%というマイナス金利を付与されているため0でもマイナスよりはマシということで購入者がいるのです。
勿論満期まで売却せずに保有した場合に得られる利回りはゼロです。
こうした状況下で、相対的に高い利回りを誇る「ハイ・イールド債」市場への資金流入がここ何年も続いていたのです。
筆者が銀行に勤務していた頃には、すでに日本の個人投資家の間でも「ハイ・イールド債」に投資する投資信託銘柄の人気は高く、販売量もトップクラスに多かったことを記憶しています。
ハイ・イールド債市場に変調の兆し~ハイ・イールド債のリスクとは?
それでは抜群の人気を誇るハイ・イールド債投資のリスクとは何なのでしょうか?
ここからはハイ・イールド債投資における3つのリスクについて解説していきたいと思います。
金利の変動率(ボラティリティー)が高い
投資の世界では価格や金利などの「変動率」のことを「ボラティリティー」という言葉を使って表現します。
ハイ・イールド債の特徴のひとつに、金利のボラティリティーの高さが挙げられます。
実際、アメリカのハイ・イールド債市場では先週(2/24-2/28)の僅か1週間でスプレッド(金利)が前週末比1.3ポイント以上上昇しています。
ちなみに社債などの債券の場合、
金利が上がると債券本体の価格は下がります
順番的には逆と考えるとわかりやすいですね。冒頭でもお話しましたが、社債を購入してくれる人がいなくなると高い利回りを提示しなければなりません。
すなわち、その社債の人気がないので債券本体の価格はダウン、金利はアップ
となります。
これほど短期間に発行金利が上昇すると、社債の発行を予定していた企業が想定以上の金利負担を強いられたり、場合によっては調達自体を断念し事業の計画の見直しなどを迫られる可能性もあります。
これは当然それらの企業業績に直結することになりますので、ハイ・イールド市場のデフォルト(≒倒産)リスクも高くなってしまいます。
そうなったときに投資マネーが一気に市場から退避するという動きも出てきます。
これがハイ・イールド債投資の1つめのリスク、金利のボラティリティーの高さです。
ちなみにハイ・イールド債の金利のボラティリティーが高くなる理由は、業績に不透明さがある企業ほどちょっとした出来事でも業績への不安を煽りやすく社債市場でもお金が集まりにくくなりやすいからです。
投資マネーの逆流が最初に起こる
ハイ・イールド債は好景気(景気拡大局面)で金利が低い時にはその利回りの高さから人気が集まりやすい投資先です。
また、好景気のときにはハイ・イールド債を発行するような信用力のあまり高くない企業であっても、比較的堅調な業績を維持しやすいので、デフォルト(≒倒産)リスクも低い水準に抑えられます。
そのためハイ・イールド債に投資する投資信託などは
好景気時にはデフォルト率もそれほど高くないうえ、分散投資の効果でリスクヘッジも効いていて、なおかつ利回りも相応に見込める優良な金融商品となります。
一方で、こうした相応のリスクがある商品(投資適格ではなく投機的水準の投資先)は、ハイ・イールド債に限ったことではありませんが、
景気後退局面には真っ先に資金が流出し価格が暴落しやすい
という側面があります。
元々投資には向かない(投資適格に満たない格付)ハイリスクな企業の社債です。
景気後退局面には真っ先に業績が悪化し、または悪化を懸念した投資家が資金を引き上げるため、デフォルト率が急騰します。
実際、リーマン・ショック直後のアメリカのハイ・イールド債のデフォルト(≒倒産)率は一時20%を超えるなど、景気悪化局面での極めて脆弱な面を実証してしまいました。
今回も先ほど申し上げた通り、ハイ・イールド債の金利が急騰し今後の予断を許さない状況です。
今回ハイ・イールド債市場が暴落した原因として、証券会社などは
「ハイ・イールド銘柄にはシェール関連企業が多く、原油価格の急落による業績悪化懸念が表面化したため。原油価格が落ち着きを取り戻せば、これらのシェール企業の業績も懸念が払しょくされる」などとして、
原油価格の急落が原因であり、あくまでも一過性のもの
というようなスタンスでのコメントが目立ちます。
この意見は正しいようで正しくないと筆者は考えています。
確かに
ハイ・イールド構成銘柄にシェール関連企業が多く、原油価格の急落によって業績悪化が懸念された
ことは事実でしょう。
一方で、本質的には
原油価格が急落した原因とハイ・イールド債が急落した原因は因果関係にあるのではなく、両者とも
世界的な景気後退局面に瀕してリスク・マネーが真っ先に逃避した
というまったく同じ理由から相場が暴落したと考えられるのです。
ハイリスクな投資先には「短期のマネー」しか存在しません。
株式の配当や優待を期待しての長期投資や、つみたてNISAやiDeCoを活用した長期の資産形成など、中長期的な観点のマネーはハイリスク投資には向きません。
ハイリスクな投資先にいるのは、儲かるときに買って危なくなったらすぐ逃げる「短期のマネー」しか存在しないのです。
リスクが高いところから先に資金が逃げていくのは当然です。
一方で、つみたてNISAやiDeCoなど長期のマネーには価格が下がった時には下がった時なりのメリットがあるためあまり景気の好不況に左右されないという特徴があります。
原油などのコモディティ(商品)市場や、ハイ・イールド債などのハイ・リスク市場はこうした短期のマネーしか存在しないために景気後退局面などの「リスクオフ」の局面になると真っ先に売られるという傾向があるのです。
これがハイ・イールド債投資の2つめのリスク、投資マネーの逆流が真っ先に起こるという点になります。
ちなみに原油価格急落の原因と仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています。こちらもあわせてご確認ください。
バブルが起きやすい
さて、ハイ・イールド債3つめのリスクとは「バブルが起きやすい」という点です。
「バブル」とは、その名のとおり泡のように実態とかけ離れた取引価格で取引が行われ際限なく価格が上昇していく状態をいいます。
「バブル」の怖いところは、購入の動機が
- 値上がり確実だから買う
- 皆が買っているから買う
- 今買わないと損だから買う
というように、投資対象としての評価よりもその「値上がりしている」という事象そのものが購入動機となっている点です。
したがって値が少しでも下がるか下がる兆候がみえるだけで先ほどの購入動機とはまったく逆の動機で売りが連鎖します。
「パニック売り」というやつですね。
- 値下がり確実だから損切りしよう
- 皆が売っているから売る
- 今売らないともっと損をするから売る
といった感じですね。
これによって膨らんだ泡がはじけて「バブル」が終焉します。
先ほどもお話したとおり、ハイ・イールド債を購入しているのはより高い利回りを求めて流入している「短期のマネー」です。
こうしたマネーは何かあるとすぐに投資先から避難します。当然ですね、利益を出すために投資しているのに損失の可能性が高くなった投資先にいつまでもお金を置いておく方が不自然です。
皆さんは「有事の円買い」という言葉や、こうした景気後退局面で「リスク回避の動きから安全資産とされる円が買われ円高になりました」などといったフレーズを聞いたことがあるのではないでしょうか。
買われるのは円やスイスフランや米ドルや金(ゴールド)ですが、その裏で逆に売られているのは原油やハイ・イールド債などのハイリスク資産です。
要するにハイ・イールド債を売って、円などを買い戻す
という動きになるのです。
「バブル」、つまり泡は膨らむときは徐々に膨張していきますが、はじけるときは一瞬です。
上るときは「価格が上昇している」という事象をみて次々に人(お金)が群がってくるのでゆっくりですが、売るときには我先にと手放そうとするので一瞬で暴落します。
これがハイ・イールド債の3つめのリスク、「バブルが起きやすい」という点になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
筆者は決して「ハイ・イールド債」が悪い投資商品だと思っているわけではありません。
特に景気拡大局面においては、
ハイ・イールド債に投資する投資信託などはむしろかなり優良な金融商品
だと思っているくらいです。
大事なのはハイ・イールド債という商品の仕組みをきちんと理解し、メリット・デメリットを投資家自身がきちんと把握したうえで投資することなのです。
価格が上がっているから、銀行や証券会社の職員がオススメだと言っているから、皆買っているからなどといった理由で投資をしていては、必ずバブルに巻き込まれていつか損失を被ることになってしまいます。
正しい知識を身につけ、賢い投資ができるようになりましょう。
最後までお付き合いありがとうございました。
コメントを残す