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はじめに
こんにちは、お金のよろず屋管理人のうーざんです。
コロナ・ショックといわれる新型コロナウイルスによる感染症が世界的に広がりをみせており、株式市場は連日不安定な動きをみせています。
この騒動が起きるまでは、日本では日経平均株価がリーマン・ショック以来11年振りの高値圏、アメリカでもNYダウ平均株価が史上最高値圏で推移するなど空前の株高に湧いていました。
実はリーマン・ショックが起こる前というのも、日本では「いざなぎ景気」と呼ばれたそれまでの最長景気拡大を抜いて戦後最長の景気拡大局面でした。
また、アメリカでも住宅価格が上昇し続ける日本の「バブル期」の土地神話のような状況にあり、かなりの好景気でした。
何やらコロナ・ショック勃発前の状況と似ているような気がしませんか?
実はこうした表面的な「好景気だった」という以外にもリーマン・ショック直前の状況と酷似した状況があり、それらはいつか爆発する時限爆弾として確かに存在しているのです。
今回は現状を理解する手段としてまずは過去を学ぶべく、日本で「リーマン・ショック」と呼ばれている2008年当時の世界的な金融危機の原因についてお話していきたいと思います。
サブ・プライムローンとは
2008年の世界金融危機、通称「リーマン・ショック」を語るときに枕詞のように使われるのが、
アメリカの「サブ・プライムローン問題」に端を発する
という言葉です。
皆さんも当時何度も耳にしたのではないでしょうか。
では一体「サブ・プライムローン」とは何で、どうしてあのような世界的な金融危機に繋がったのでしょうか?
「サブ・プライムローン」とは、ある程度信用力の高い方向けの「プライムローン」に準ずる=サブという意味であり、その名の通り信用力の劣る方向けのローンのことです。
普通日本などでローンを組むと、支払は毎月一定額を返済していくことになります。
ですが、サブ・プライムローンでは住宅価格の値上がりを前提とした商品設計となっていたため、最初の数年間の支払を低く抑えその分の支払を先に回すのです。
おかげで年収が低くて信用力のない人でも返済額の少ない最初数年間は返済ができます。
その後返済額が上がる前に住宅を売却してローンを一括で返済してしまいます。
アメリカの住宅価格は2000年から2006年までの7年間でおよそ1.86倍に上昇しました。 ですから購入したときの価格より高い価格で住宅が売却できたため、売却益でさらに高い家に住むための新たなローンを組むのが当時の常識でした。
こういう状況下でこのような無茶なローンが成り立ったのです。
ここまででお分かりだと思いますが、「サブ・プライムローン」は住宅価格が上昇しているからこそ成立する仕組みです。
住宅価格が下がり始めたら返済額が上がっても住宅を売却して返済するという荒業が使えなくなってしまします。
たちまち返済額の上昇によりローンの返済が滞る人が多発しました。返済が滞った住宅はただちに銀行の担保にとられ売却されてしまいます。
これまで住宅が購入できなかった「サブ・プライム」層による住宅の購入によって上昇を続けていた住宅価格はたちまち下落を始めました。
こうして「サブ・プライムローン」という仕組みは崩壊しました。
サブ・プライムローン問題を世界に広げた「CDO」とは?
ですがこれだけでは、世界的な金融危機になるわけがありませんよね。単にアメリカの住宅バブルがはじけたというだけです。
実は「サブ・プライムローン」は「CDO」という投資商品として世界中の投資家に販売されていました。
実は日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、アメリカではローン債権のような貸出債権も銀行などの債権者から証券会社などに売却され社債や株式などと同じ投資商品として販売されています。
ローンも元本(借入の元金)と利息があり、元金の返済リスクを負う代わりに利息というリターンを得ることができるため投資商品として成り立つのです。
「CDO」というのは日本語では債務担保証券などと訳されますが、社債やローンなどの貸出金をたくさんあつめてひとまとめにした「福袋」のような投資商品です。
たくさんのローンや社債を集めて「証券」にしたうえで、それを小口化して販売するのです。
「サブ・プライムローン」も当時この「CDO」に組み込まれて世界中に販売されていました。
なぜたくさんのローンや社債を集めるかというと、リスクを分散化するためです。
信用力の高い人へのローンと、低い人へのローンを1万個ずつ集めて証券化すれば中くらいの信用リスクの人へのローンを2万個集めたのと同じくらいのリスクになる
というような理屈です。
実際には「金融工学」という複雑な計算を用いてリスクを平準化させるようにしていますが、ここでは分かりやすくするために話を簡単にしています。
ただ実はこの「金融工学」が曲者で、最新のコンピュータを使って複雑すぎる計算をしているため、作った人自身もリスクがどうなったのかよくわからない程原型をとどめないものになってしまっているのです。
そのため誰もホントのところはよく分かっていないけど、頭のいい金融の専門家がすごいコンピュータと金融工学というすごい学問を使って作った商品だから、安心だろう
という感じで世界中の投資家がよく分からないまま、安全な投資商品として購入していました。
実はこの件には世界中の投資商品に「格付け」を付与している格付会社もひと役買っていました。
格付会社もサブ・プライムローンを組み込んだ「CDO」の仕組みが複雑すぎてよく分からないまま、開発者たちの「安全だ」という説明を鵜呑みにして「AAA(トリプルエー)」など各格付け会社の最高位(最も安全)の格付けをつけていました。
この商品の厄介なところは、リスクの高い「サブ・プライムローン」など信用力の低い人向けのローンなども組み込まれていたため、利回りは高かったのです。
格付が最高位で、利回りも高いとなれば世界中の投資家たちはこぞって購入します。こうして「サブ・プライムローン」はまるでウイルスのように世界中にばらまかれてしまったのです。
これらの商品を大量に購入していた投資家のなかには、プロ中のプロであるはずの欧米を中心とする金融機関も多く含まれていました。
そのなかでも特に大量のサブ・プライムローン関連のCDOを保有していたのが当時アメリカの投資銀行(証券会社のようなところ)で4番目の規模を誇った「リーマン・ブラザーズ」だったのです。
当サイトでは何度も繰り返しお話していますが、投資の世界では
必ずリスクとリターンは振り子の振れ幅の関係のように同じだけあります(厳密には手数料などを加味するとリスクの方が高くなるケースはありますが)。
6%の利回りがあるのに、格付けは「AAA」でローリスク
なんてことはあり得ません。
6%儲かる可能性があるなら毎年年6%の損をする可能性も当然あります。
これが投資の常識です。
ですがコンピュータを使って、人間の頭で考えられる以上のわけのわからないことをやってしまったために、プロ中のプロの人たちでさえこんな基本中の基本のことがわからなくなってしまったのです。
これが「サブ・プライムローン」を世界に広げた元凶の「CDO」という金融商品です。
ちなみに「CDO」と似た名前の商品で「CBO」や「CLO」という名前のものもありますが、社債などの債券のみを組み入れているものを「CBO」、ローンなどの貸出債権のみを組み入れているものを「CLO」と呼ぶだけで基本的にはいずれも「CDO」の仲間です。
損失額を何百倍にも拡大させた「CDS」とは何か
さて、「サブ・プライムローン」を世界中に広げた元凶は「CDO」というたくさんのローン債権などを束ねた福袋のような金融商品でした。
さて、この「CDO」の被害をさらに拡大させた犯人がいます。
それが「CDS」という金融商品になります。
うーん、CDOとCDS・・・一文字違いで非常にややこしいですね。
こちらは「クレジット・デフォルト・スワップ」といって要するに保険の一種です。
「CDO」などの金融商品の元本が毀損するなどの事態が発生した際に、その損失分を補填してくれるのが「CDS」という金融商品になります。
先ほど保険の一種といいましたが、正確には名前の通り「スワップ」というデリバティブ取引(金融派生商品といいます)の一種で、厳密には「信用リスク」を売買しています。
が、ややこしいのでここでは保険の一種と理解してください。
この「CDS」ですが、「サブ・プライムローン」を組み込んだ当初のCDOでは住宅価格が上昇していたためほとんど「デフォルト(≒損失)」が発生せず売れば売るだけ儲かる金融商品でした。
さらに厄介なのは、通常の火災保険などの損害保険でもある仕組みですが保険の世界には「再保険」という仕組みが存在します。
保険会社などは契約者と保険契約を結んで、保険事故が発生した場合保険金を払います。ですが大規模な災害が発生した場合、一気に保険金の支払いが嵩んでしまうためリスク分散化のために「再保険」という仕組みでリスクヘッジを行っています。
「再保険」では再保険専門の保険会社などと保険会社が契約し保険料を支払うことで、保険金の支払いがあった場合に保険会社自身も再保険によって保険金を受け取ることができます。
実は「CDS」においてもこの「再保険」どころか、「再々々保険」のように保険の保険の保険の・・・といった形で大量の「CDS」が販売されました。
「CDO」が高利回り・高格付け(=低リスク)の超人気商品としてどんどん組成されたため、このCDS残高も急激に膨張しました。
2001年末に世界で9千億ドル強(約90兆円)だったCDSの取引残高は、リーマン・ショック前の2007年末には62兆ドル(約6,200兆円!日本のGDPの12年分以上)とたった6年間で60倍以上の規模になったのです。
CDSもCDOと同様、優良な金融商品として世界中に販売されましたが、保険の保険の保険の・・・と再保険を繰り返すうちに元々の元本が何だったのかもわからなくなり、誰が誰の何の保証をしているか誰にも分からなくなっていました。
そのため一度、「サブ・プライムローン」を組み入れたCDOに対して信用不安が広がると、あとはもう投げ売り状態です。
自分がどういうリスクを抱えているかも分からないので、なんでもいいから早く手放さなきゃという心理状態になるのは当然ですよね。
これが「サブ・プライムローン」問題というアメリカ一国の住宅バブルを、100年に1度といわれた世界的な金融危機にまでならしめた最大の元凶「CDS」です。
この「CDS」を当時最も多額に販売していたのは、アメリカ最大の保険会社であった「AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)」でした。
AIGは金融危機の直前で4千億ドル(40兆円、日本最大の企業であるトヨタ自動車の2年分の売上くらい)以上のCDSを販売していたとされ、この取引によっておよそ▲10兆円というアメリカ企業史上最大の赤字を出して一時国有化されました。
「たられば」ですが、「CDS」がこれほど無秩序に発行されていなければ、危機はこれほどの規模にはならなかったと考えられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「サブ・プライムローン」に端を発する「リーマン・ショック」はこのような仕組みによって、世界を巻き込む100年に1度の金融危機となったのです。
実は今、リーマン・ショックから10年以上の歳月を経て再び金融危機の火種がくすぶっています。
その件については、こちらの記事で解説していますのでこちらも是非あわせてご確認ください。
最後までお付き合いありがとうございました。
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